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臨床検査を終了した検体の業務、教育、研究のための使用について

-日本臨床検査医学会の見解-

 臨床研究におけるインフォームドコンセント(十分な説明に基づく同意)の精神は1947年のニュールンベルグ倫理網領にはじまり、1964年の世界医師会総会でヘルシンキ宣言として採択された。後者はその後、5回の修正を経て、2000年10月、エジンバラでの総会で確認されている。その基本は、被験者(被検者)が自分の意思に反して生命、健康、プライバシーおよび尊厳について不利益を被らないようにすることである。

 臨床検査については、本邦でも、HIV検査についてのインフォームドコンセントが定着しており、また、ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針1)が2001年4月から施行され、その順守が義務づけられている。このような流れの中、日本臨床検査医学会は2000年12月に倫理委員会を立ち上げ、臨床検査に関連する種々の倫理問題を討議することとした。その中で、当面のテーマとして「臨床検査を終了した検体の取扱い」を討議することとなり、可及的速やかに本学会の考えを示すこととなった。

 目的検査終了後の臨床検査検体2)の残存部分(以下、残存検体)は、再検査などのために一定期間保管後、医療廃棄物として処理されるが、その一部は従来、業務3)、教育4)や研究にも活用され、検査データの信頼性と有用性を高める上で重要な役割を果たして来た。

 さらに、異常データを示した検体については、その残存検体を用いた研究から多くの新知見が得られ、被検者(患者等)の病態のより詳細な解明のみならず臨床医学の発展に大きく寄与してきたところである。これには、医学の発展に期待する被検者の善意と理解が基盤にあることを銘記しなければならない。こうした残存検体の活用に関しては、臨床検査の長い歴史の中で、被検者に益することはあっても、不利益になるような事例は皆無に近いと思われる。しかし、近年、患者の立場に立ったより良い医療の促進が叫ばれる中で、残存検体の取扱いについても改めて明確な指針を定める必要性が生じた。

 この度、この問題に対する本倫理委員会の基本的見解を以下のように取りまとめた。ただし、遺伝と遺伝子の検査に関しては、上記倫理指針1)のほか、医療機関での検査と衛生検査所での受託について別に規定されており5)6)、また、病理検体の研究・教育への使用7)と衛生検査所での検査済み検体の廃棄8)についても指針が出されており、それらに従うべきである。

  • 臨床検査室の管理者(以下、管理者)および業務・研究担当者はいずれも、被検者の個人情報や検査データについての守秘義務を順守し、被検者が不利益を被らないようにしなければならない。なお、管理体制については、各施設内で改めて討議し、定める必要がある。
  • 残存検体の「業務への使用」は、通常、プール化9)および/または匿名化10)して行う。その限りにおいて、個々の同意を特に必要としないが、取扱いには管理者が責任を持つ必要がある。「教育のための使用」についても、「業務への使用」に準じて処理、管理がなされなければならない。
  • 残存検体の「業務への使用」は、通常、プール化9)および/または匿名化10)して行う。その限りにおいて、個々の同意を特に必要としないが、取扱いには管理者が責任を持つ必要がある。「教育のための使用」についても、「業務への使用」に準じて処理、管理がなされなければならない。
  • 残存検体の「研究への使用」には、原則として、被検者から文書による同意を得る11)必要がある。ただし、測定法の改善や異常値の解明などの検査業務に直接関連する研究では、検体をプール化および/または連結不可能匿名化する場合はこの限りでない。一方、連結可能匿名化して用いる場合は、研究担当者と管理者は被検者に対する守秘を厳重にし、その取扱いには管理者が責任を持つ必要がある。検査業務に直接関係しない研究の場合は、各研究担当者と管理者の判断で、当該施設の倫理委員会の審査を受けることを原則とする。
  • 残存検体の分与12)および廃棄は、管理者が責任を持って行わなければならない。

2002年5月25日
日本臨床検査医学会

  • ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針(文部科学省、厚生労働省、経済産業省)
    平成13年3月29日)
    (URL:http://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/seimei/genomeshishin/index.htm
  • 〔臨床検査検体〕:血液、尿、糞便、脳脊髄液、体液および分泌物、臓器・組織、細胞など。分離菌は対象外とする。
  • 〔業務〕:精度管理、基準範囲の設定、新試薬と現有試薬の比較、測定法の改良と評価など。
  • 〔教育〕:医療関連教育機関の学生、医療施設の職員などを対象とした臨床検査の講義、実習、研修など。資格認定試験を含む。
  • 遺伝学的検査に関するガイドライン(案)
    (日本遺伝カウンセリング学会、日本遺伝子診療学会、日本産科婦人科学会、日本小児遺伝学会、日本人類遺伝学会、日本先天異常学会、日本先天代謝異常学会、家族性腫瘍研究会)
    (平成13年3月27日)
    URL:http://www.congre.co.jp/gene/contents/f_kanren.htm
  • ヒト遺伝子検査受託に関する倫理指針 (日本衛生検査所協会)
    (平成13年4月10日)
    URL:http://www.jrcla.or.jp/210410.pdf
  • 病理検体を学術研究、医学教育に使用することについての見解(案)
    (日本病理学会)平成13年度秋季総会(平成13年11月27日)
  • 検査済み検体の廃棄に関する統一見解について (日本衛生検査所協会)日衛協だより№102(5)(平成12年3月20日)
  • 〔プール化〕:多数の検体を集めて混和し、それを一つの検体として扱うこと。
  • 〔匿名化〕:個人を識別する情報の全部または一部を取り除き、代わりにその人と関わりのない符号または番号を付すこと。
    a.連結可能匿名化 必要な場合に個人を識別できるように、その人と新たに付された符号または番号の対応表を残す方法。
    b.連結不可能匿名化個人を識別できないように、aのような対応表を残さない方法。
    (ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針1)より抜粋)
  • 〔同意を得る〕:承諾書を外来初診時または入院時に一括して得る方式や主治医を介して個々に得る方式などがある。
  • 〔検体分与〕:検体の一部を、教育、研究や全国調査(サーベイ)などのために、他施設の研究者に提供すること。