検査疫学データベースの構築

(1)EBLM実践のための基礎情報として、疾患別症例データベースを多施設共同で構 築する ・学会のネットワークを活用して研究協力機関および研究協力者を募り、多施設共同  で疾患別の症例データ(臨床所見、病理所見、検査データ)を、一定の規準で収集  する。 ・対象疾患は頻度の多い疾患、検査診断上重要な疾患を重点的に選ぶ   血液疾患  :骨髄腫、骨髄異形成症候群、CML、AML   消化器疾患 :急性膵炎、急性肝炎、肝硬変   自己免疫疾患:SLE、強皮症、皮膚筋炎、MCTD   内分泌疾患 :甲状腺機能低下症、クッシング症候群   腎疾患   :ネフローゼ症候群、慢性腎不全 ・目標症例数:100〜300症例 ・収集する情報:   症例カードを作成して統一したフォーマットで収集   施設による症例の偏りを事後補正するため、病型、進行度・重症度等、主要な病  態情報・臨床所見を明記 ・収集に当たっては、後々科学的および倫理的評価に耐える結果が得られるよう、イ  ンフォームドコンセントにも配慮した一定の基準を定め、全員がそれを遵守する。 ・医療機関として協力体制をとれない場合でも、研究協力者個人が自分の守備範囲で  適切に収集する方法を工夫するなどして、できるだけ収集範囲を拡充する。 ・得られたデータを検査疫学システム(市原清志委員開発)に格納する。 ・検査値および検査値のクロスチェックで得た施設間差の情報を同時に登録し、測定  値の互換性を取る。 ・施設コードを記録し、症例の施設間差(偏り)に対しても統計学的に柔軟に対応で  きるようにする。 (2)収集したデータを統計学的に解析し、データを適切に収集すれば、これまで見 逃されていた検査診断上の新知見が得られることを実証する。 ・十分なデータが集まったところで、検査疫学システムのビジュアリゼーション機  能、リアルタイム知識生成機能、統計処理機能(多変量解析・判断分析、等)を利  用てさまざまな切り口で解析する。 ・教科書的知識の誤りや社会的に重要と考えられる新知見が得られたら、その結果を  国内外の各種メディアに公表する。 ・これらの成果をエビデンスとしてEBLMを実践する。 (3)この実績を根拠に、検査疫学データベース構築の必要性を各方面に啓蒙する。 ・症例データベースだけでは、予防医学に必要なエビデンスは得られず、さらに健常  人を含む網羅的なデータの蓄積が重要である。 ・もし網羅的なデータが経時的に収集できれば、時系列解析機能を追加した検査疫学  システムを用いて、疾病リスク予測と各種介入による軽減効果に関するエビデンス  が得られる。 ・このエビデンスは、出版バイアス等の人為的影響を受けないため、従来のメタアナ  リシスやメガトライアルよりも格段に正確であり、かつニーズに応じ、いつでも同  じデータを用いてダイナミックに生成できるという特長がある。 (4)検査疫学データベース構築の研究実施計画を作成し、各方面に助成を依頼する。 ・疾病リスクと各種介入による軽減効果が正確が予測できるため、患者リスクの軽減  と無駄な医療費の削減に格段の効果が期待できる。 ・特定の商品に不利な結果が出る可能性があるため、資本の論理に影響されない組織  が実施する必要性がある。 ・我が国特有の学校、企業、地域住民等の健診実施体制に相乗りさせれば、他国に比  べはるかに少ないコストで網羅的にデータが収集できる。 ・得られたエビデンスから具体的な健康政策が実施された場合、その効果を同じシス  テムの中で計測できる。 ・プライバシーやセキュリティに関する不安に対し十分に対策を施したうえで、時期  を見てSNPs等の遺伝子検査項目も視野に入れる。 ・得られるエビデンスとして社会的に重要と考えられるテーマを例示し、説得力を強  化する。   PSA測定の前立腺癌に対する予防効果   便潜血検査の大腸癌に対する予防効果   ペプシノーゲン測定の胃癌に対する予防効果   血清コレステロール測定の虚血性心疾患に対する予防効果   血圧測定の脳血管障害および循環器疾患に対する予防効果   糖尿病スクリーニングの合併症に対する予防効果 (5)検査疫学データベース構築の有効性が実証された時点で、学会の収益事業とし  て有償で実施するか、あるいは国家プロジェクトとして公的な機関が行うか、いず  れかの方向性を選択する。                                    以上