国際学術集会出席報告書

                症例データベースの多施設共同構築研究班                  (科学研究:基盤研究C(1):14607025)                          2002年8月14日 集会名称 第54回米国臨床化学会(AACC)年次集会 開催期日 2002年7月28日(日)〜7月30日(火) 開催場所 アメリカ合衆国フロリダ州 Orlando市   Orange County Convention Center. 出席者  山口大学医学部保健学科 市原清志 (1)本学術集会への参加目的  AACCは臨床検査医学の分野で最も権威があり最新の情報が集まる学術集会で あり、今年は本研究班のテーマである、Evidence based medicine(EBM)の実践 に関する話題がたくさん出されている。そこで、その動向をつかむとともに、 共同研究者であるNIHの2人の専門家と会合しその方法論について討議を行 う。 (2)事実に基づく臨床検査の実践論に関するセッションへの参加  一般演題には関連の発表が多数見られたが、Plenary sessionの1つと2つ のeducational courseで診断的検査のEBMに関する発表を中心に研究の動向を つかんだ。  (1) Helping Clinicians To Apply the Results of Laboratory Tests.    (Guyatt, G氏)   ・Plenary session: 7月30日(火)午前8時45分から10時00分まで   ・臨床検査のEBMの実践法を、平易な症例を使い解説。   ・システマティックレビューの方法論についても触れたが、新しい内容は    なく、あまりにも単純な理論であり、より複雑な症例を扱う診断学の    現場からかけ離れた話と思われた。  (2) Designing and Validating Patient Outcome Studies    (司会Burtis, D氏)   ・Fullday educational session: 7月29日(月)午前10時30分から17時00分   ・ClinChem誌の編集長Burtis氏が中心となり、EBMを実践する上で、臨床    検査医学、臨床化学の領域でのoutcome researchの形が模索された。そ    して、その実践のためにはどのようなprimary studyが必要となり、特    にoutcome studyとしてどのような形がありうるかについて、様々な研    究デザインが例示された。また論文投稿に当たっても、査読の段階で、    研究デザインの妥当性を十分に評価し、EBMに耐えうる論文がたくさん    出るよう、厳正な審査が必要であることが強調された。   ・私の印象としては、outcome studyの重要性は分かるが、検査側でモニ    ターできるoutcomeとは、患者待ち時間の短縮や医療経済性などの観点    に限られ、臨床試験で求められる、治癒・再発・生死といったoutcome    とは大きく質が異なると思われた。一方、肝心の検査の診断的意義につ    いてのprimary studyの形については、ほとんど解説がなされなかった    ことに不満が残った。この意味で、本研究班のめざす、疾患別症例デー    タベースの形のprimary studyの必要性を今後アピールしてゆくことが    必要と思われた。  (3) Three Algorithms for More Effective Diagnosis of Myocardial    Infarction (司会Garber,C氏)   ・Half day educational session: 7月30日(火)14時45分から17時00分   ・共同研究者のde Leo氏がROC曲線分析法の利用法と解釈の実際、および    ファジイROCやカットオフ値の求め方について解説。また、他の研究者    は潜在構造解析の臨床検査の方法について述べるなど、検査の臨床的評    価法について解説した。しかし、内容はesotericなもので実際の臨床検    査の現場のニーズからかけ離れたものであり、得るところが少なかっ    た。 (3)臨床検査の有用性の評価法に関する討議  7月30日(火)17時30分から、共同研究者である、NIHで臨床検査医学を専門 とする、Remaley, A氏、同じくNIHで検査分野の情報科学を専門とするdeLeo氏 と、3名で会場近くのレストランで会食し、EBMの実践上の問題点について計 3時間にわたり討議した。  討議は、私が今秋の国際臨床化学会で発表予定の、「ROC分析のpit fallお よび、多変量解析による臨床検査の診断的評価の必要性」に関するスライドを 提示し、その内容の是非につきコメントをもらった。同発表内容は、全体とし て極めて的を得たものであり、その方向で内容を充実させることで賛同が得ら れた。  また、EBMのprimary studyとして疾患別症例データベースの構築が必要とす る我々の研究についても、強く興味が示された。事実、同様の症例データベー スをNIHでも今年度より構築を開始する予定になっていることが、話題にあが り、我々の研究の先駆性を感じた。                              (市原清志)