国際学術集会出席報告書

                症例データベースの多施設共同構築研究班                  (科学研究:基盤研究C(1):14607025)                          2002年8月14日 集会名称 The 10th International Cochrane Colloquium 開催期日 2002年7月31日(水)〜8月4日(日) 開催場所 ノルウェー王国 Stavanger市 Stavanger Forum 出席者 山口大学医学部保健学科 市原清志(8月1日(木)午後から参加)     順天堂大学医学部臨床病理 三宅一徳     東京医科歯科大学附属病院検査部 西堀眞弘 (1)本学術集会の概要  Evidence based medicineの実践に必要な知識ベースの構築とその普及を目 指したCochrane Collaborationの学術集会が毎年1回行われている。今年は、 ノルウェー王国のStavanger市で開催され、4つのPlenary Session、84のポス ター発表の他、48のワークショップと数多くのビジネミーティングが組まれて いたが、口演発表は省かれていた。参加者リストには400名余が掲載され、ほ とんどが英国、英国連邦諸国およびヨーロッパ諸国からの参加者で、一部は途 上国から招かれていた。その他中国からの参加者が目立ち、日本からは我々を 含め7名が事前登録していた。  なお、プログラムの詳細は10th Cochrane Colloquiumのホームページ (http://www.cochrane.no/colloquium/)に掲載されているのでご参照頂きた い。 (2)診断的検査のシステマティックレビュー(SR)に関する班内討議  8月1日と2日の夕食時に、いずれも90分程度、検査診断エビデンスの構 築法について班内での討議を行った。その要旨は次の通りである。 「Cochrane Collaborationとして現在データベース化の作業が行われている データベースのうち主要な3つは、(a)約2400よりなる無作為臨床試験(RCT)に 対する精緻なシステマティックレビュー(SR)、(b)一定の基準で抽出されたRCT に絞った文献データベース、(c)prospectiveに行われる新規RCT登録データ ベース(The Cochrane Controlled Trials Register)である。これらは、いず れも研究デザインがRCTであるものに限定されたものである。我々臨床検査医 が求めている検査診断に関するエビデンスは、症例・対照研究に依存している ため、いずれのデータベースも利用価値が乏しい。Cochrane Collaborationで は、昨年度までは診断的検査のSRの必要性に関するミーティング(The Screening and Diagnostic Test Methods Group)が開かれていたが、今回そ の具体的な取り組みをめざしたミーティングは事前に予定されていなかった。 また、市原清志班長があるワークショップでCochrane Collaborationのデータ ベース作成担当の研究者に質問したが、診断的検査に関するSRの動きはないと いう。これらの現状は、SRでエビデンスの収集を推し進めるのは困難との認識 が背後にあることを示していると思われる。それゆえ、本研究班が目指してい る、primary studyとしての疾患別症例データベースの構築が、的確な検査診 断エビデンスの生成に不可欠と思われ、その考え方を積極的に世界の研究者に アピールすべきである。」 (3)The Screening and Diagnostic Test Methods Groupのbusiness    meeting  当初予定されていなかったが、我々が現地でconvenerのJoergen Hilden氏 (デンマーク)に出席の主旨を説明したところ開催される事になった。会議の 雰囲気はホームページに掲載したビデオ映像でご覧頂きたい。  →http://temp.jscp.org/c_eblm/20020803am.html  (QuickTime movie, 11.4MB) 日 時:8月3日(土)午前7時45分から9時20分まで 場 所:Room Tungenes 2 出席者:我々3名とHilden氏を含む10名 内 容: 1.Hilden氏によるMethods Groupの経過説明 2.出席者の関心領域を中心とした自己紹介 3.市原清志班長のプレゼンテーション  (→http://temp.jscp.org/c_eblm/20020803a.pdf) ・EBMにおける検査診断の重要性 ・診断性能を測るための症例対照研究にはバイアスが不可避であり限界がある  こと ・個別症例データの集積によるオンデマンド分析に取り組んでいること ・それを実現する自作ソフトのデモンストレーション  (→http://statflex.net/) →基本的には出席者から大変好意的に受け入れられ、次のような意見があった  −何らかの研究計画の元にデータを集めないと難しいように感じる  −診断への利用価値はよく分からないが医学教育には有用と感じる  −検査項目が抜けている症例は検査しなかった理由がバイアスとなりうる  −症例数が十分でないときの制御はどうするのか  −新しい症例や他の医師による診断との比較など、このシステムの妥当性の   客観的評価が必要  −単変量で分離できなければ多変量で解析するという順序が普通ではないか 4.STARDやBayes coloborationなど他のグループに関する情報交換 5.その他の議論 ・検査診断に関するシステマティックレビューグループの見込みはどうか  →期待は大きいがまだないのが現実である ・執行委員会に伝える事はないか ・資金提供者は検査診断に関心を寄せているのでうまくアプローチすべき ・検査診断に的を絞ったシンポジウムが必要ではないか  →これらについてHilden氏にメールすれば取りまとめたい 6.会議終了後の議論  本会議の後、昼食時にMcMaster大学のGordon Guyatt教授、名古屋市立大学 の古川壽亮教授と同席する機会があり、市原清志班長からGuyatt教授に研究の 要旨を説明したところ、主旨は正鵠を得ており、大変素晴らしい挑戦だとのコ メントを得た。 (4)その他  開催地Stavangerはその昔オイルサーディンで栄えたが、資源の枯渇後現在 では北海油田の開発基地として潤っており、こぢんまりしているものの基盤整 備の行き届いた安全な街である。気候も緯度が高い割には暖流の関係で穏やか で、今の季節は25℃まで気温が上がり暑い程である。フィヨルド観光の拠点 となっていることもあり観光客も多いが、物価が東京の倍程度と驚異的に高い (消費税が24%)ので、気軽に訪ねるには敷居が高いかも知れない。                                 以上