日本臨床検査医学会 Japanese Society of Laboratory Medicine

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第二のキャリアとして臨床検査専門医を考えてみませんか?
~キャリア転向を考えている医師の方へ~

キャリア転向を考えている医師の方へ

 臨床検査科という診療科があります。中央診療部門として、正確な検査結果を報告することで、多くの診療科を支える存在です。「検査科」「検査部」「臨床検査科」などの標榜については施設によっていろいろな呼び方をされています。

 そのために臨床検査専門医は中央診療部門として勤務する場が多く、臨床検査専門医とは、自分にあった専門性を活かして仕事と生活のどちらも充実させて相乗効果(シナジー)を生みだせるような「ワークライフシナジー」が実現できる専門医です。キャリア転向を考える医師の方に新しい進路の選択肢の一つとして、臨床検査を知っていただきたいと思います。

第二のキャリアとしての臨床検査専門医

 臨床検査専門医とは、臨床検査を通して診断や治療に役立つ検査結果と関連する情報を臨床医に提供し,臨床検査全体を管理する医師のことです。学問分野としては、基礎医学と臨床医学を結ぶ掛け橋となる総合的な学問領域です。
 臨床検査は、ベッドを持たないなど検査関連以外のdutyが少ないという点で他の分野と大きく異なり、基本的に臨床検査医としての当直はありません。専門性を持ちながらそれぞれのライフスパンに合った働き方を選ぶことができます。
 予防医療や先制医療の重要性が増す中で、臨床検査専門医の業務や重要性が高まり、臨床検査専門医を取得することのメリットやアドバンテージの裾野が広がります。

臨床検査に転向した医師から寄せられた臨床検査医の魅力として

・ 医学の全ての領域を対象とできること
・ 患者さんの全体をみることができること
・ 臨床研究や基礎研究を行うことも可能であること
・ 論文執筆などに適した環境であること
などがあります。

臨床検査が、ワークライフバランスの実現に適する特徴として

・ 病棟や当直がなく、時間の自由がきくこと
・ 希望によって臨床も続けることができること
・ 血液、呼吸器、消化器はじめ種々の臨床経験を活かした臨床検査専門医になれること
・ 人間ドック/健診医、超音波専門医、遺伝専門医などの次のステップへの基礎となる領域であること
・ 臨床検査専門医を求める施設は多く、収入が安定したスタッフとしての雇用の機会が多いこと
・ 臨床検査管理業務の中で、臨床検査技師をはじめとする色々な職種の方と一緒に働くことで仕事の幅が広がること
などがあり、専門職としての臨床検査の魅力は数多いはずです。

様々なバックグラウンドを活かして活躍されている臨床検査専門医の声をご紹介します!

臨床検査専門医に目指すことになった“3つの転機”(聖マリアンナ医科大学臨床検査医学講座 五十嵐 岳 先生)

 “五十嵐くん、担当患者さんの検査を一緒に見てきたら?”
 これは、自分が研修医1年目にローテートしていた腎臓高血圧内科のオーベン、K先生からの提案でした。忙しいのにメンドクサイなぁと思いつつも検査についていったわけですが、検査室では担当技師さんが心電図の読み方を丁寧に教えてくれて“面白い!”と感じたことが、検査に興味を持つきっかけとなりました。これが“1つ目の転機”です。
 このような経験に加え、元より“治療よりも診断”に興味があった自分は、様々な検査に興味を持つようになり、内視鏡を習得する目的で消化器肝臓内科に入局、医師として多くの経験を積ませていただきました。しかし、夜間呼び出しが頻繁にあるような日々の中では“症例を一例一例吟味しながら診断することは困難である”ことも知りました。
 その後は大学院に進学、超音波で肝臓の硬度測定をする臨床研究を行ったのですが、その際に“毎日追い立てられながら診療するよりも、何かを考えながら決定していく方が自分には向いているのでは?”と感じたのが“2つ目の転機”となり、消化器肝臓内科から臨床検査医学への転科を決めました。
 最後、“3つ目の転機”は、今回の臨床検査専門医受験です。転科後、認定内科医、超音波専門医を取得したものの、診療を行う上で“多角的に診断できるだけの知識が欲しい”と感じるようになりました。そこで、臨床検査専門医を受験してみることに。臨床検査医学、臨床血液学、臨床化学、臨床微生物学、臨床免疫学、輸血学、臨床生理学。これらは臨床検査専門医試験の受験科目ですが、医師になってから10年が経過している今、これだけの科目を新たに学べる機会はまずありません。消化器を中心に学んできた自分にとって、血液や輸血は本当に“未知の分野”でしたし、微生物学も感染症を学び直す良い機会になりました。(笑)
 さて、最後に少しだけ。もし、技師さん達が持っている検査能力を身につけることができたならば、“自信をもって診断できる医師”になれると思いませんか?そのような“ひと味違ったGeneralist”に興味をお持ちの方、臨床検査の扉を叩いてくれることをお待ちしております!

臨床検査専門医(東京慈恵会医科大学臨床検査医学講座/附属病院中央検査部 小笠原 洋治 先生)

 私は平成4年に内科研修医をスタートし、初期研修および大学院修了後に、血液内科のレジデントを経て血液専門医になりました。血液内科の先輩方は、骨髄検査や凝固検査を扱う科の性質上、昔から中央検査部でも業務をされており、私も8年前から血液内科との兼任で働くようになりました。その後徐々に自身の専門性をより検査側にシフトしていきたいと考えるようになり、遅ればせながら臨床検査専門医となりました。この春からは臨床検査医学講座の所属となり、附属病院では中央検査部専任医師として腫瘍・血液内科と兼務をしております。
 勤務している病院の状況によって検査専門医に求められる役割は違うと思いますが、大学病院では各科に専門医が揃っていますので、自分がすべての領域について深い知識を持ち、専門的なコメントをすることは今のところ困難と考えており、まずは自身の専門とする血液領域でコメントを行うことを基本とし、より精度の高い診断法の確立や新規検査の開発など、専門性を高めることを目指しております。一方、血液内科医として診療する中で診断や治療に関わる問題点も見えやすくなると思いますので、私は臨床を継続していくことも等しく大事であると思っております。また、大学に所属する検査専門医の役割の一つには学生教育があると思います。基礎と臨床の知識の連携や、症候と検査から病態を考えるプロセスの習熟が医師になる上で重要であることに異論はないものと思いますが、その指導医として基礎と臨床に通じる立場である検査専門医は適任なのではないかとも思っております。
 臨床検査専門医としては、様々な形があり得ると思いますし、その多様性が特徴であるとも思います。私の場合は、内科医×血液内科医×臨床検査医=?の自分なりの答えを模索しつつ頑張っていこうと思っております。

臨床検査専門医試験に合格して、そして地方病院での役割(紀南病院中央臨床検査部長 尾﨑 敬 先生)

 私は臨床検査部長として和歌山県南部に位置する紀南病院に勤務しています。臨床検査専門医認定試験に合格して嬉しかったのは検査部長として少し自信ができたことです。勤務した当初は、意志疎通がうまくいかず自信がなく孤独になりがちでした。自信がない原因には2つの問題がありました。①つは私の専門分野(病理)以外の検査のことが理解できていない。②つ目は検査部内の人間関係や各スタッフのことが理解できていないことでした。①②を解決しなければ、検査部の中で仕事と責任を円滑にすることが難しいことを過去に検査部長として勤務した病院で体験していたので、やるべきことは決まっていました。
 ①を解決するために、先ず私の専門分野以外の検査のことを理解するように努めました。学術集会や検査部内の勉強会に参加して各検査の理解に努めました。
 ②の人間関係と各スタッフのことを理解するために、日常多忙な中でも、わずかな会話を大切にしようと心がけました。わずかな会話でも互いに理解するために各検査のことを最低限知っておくことは当然であり、臨床検査専門医試験の合格は最低限のハードルを越えたと自覚できるものでした。この自覚が少しの自信につながっていると思います。
 もちろん臨床検査専門医が検査全部を理解できるとは思いません。各検査が時代とともに高い専門性と深い内容を有しているからです。それゆえ当院検査部では、臨床各科専門医と専門分野で協力しながら検査技師が検査を行っています。私の役割は検査部の隙間を埋めることで、臨床検査部を信頼される充実した部門とすることだと考えています。このことは時代とともに重要になっています。具体的には精度管理、適正検査、コンプライアンスの名称で呼ばれていますが、これらに貢献できるのが他でもなく臨床検査専門医です。私の場合は地方病院という環境下で、臨床検査専門医として検査部を通して病院に、地域の方々に貢献することだと考えています。

臨床検査専門医の一員になりました!(横浜市立市民病院検査部 千葉 泰彦 先生)

 こんにちは。横浜市立市民病院検査部の千葉泰彦と申します。当院はH32年に新病院へ移転予定です。病床数は650、ER型の救命救急センターを持ち、高度急性期病院を目指しています。神奈川県で唯一の第一種感染症指定医療機関でもあります。
 私は 2 年間のローテート研修後に外科医として数年間働き、その後は医局を離れ少年院、少年鑑別所などで14 年間、被収容者の健康管理医をしていました。そのうち11 年間勤務した横浜少年鑑別所では、いわゆる非行少年の多くが元々はイジメの被害者であり、周囲の大人から適切な援助が受けられなかったり繰り返し裏切られてきた経験から大人や社会への不信感を持っていること、女子では特に自殺のリスクも高いことを学びました。
 H23年に当院に検査部長として就職しました。父が血液内科医で臨床検査の仕事もしていたので縁を感じます。検査部発の接遇向上を掲げ、積極的に笑顔で挨拶することを実践しています。コミュニケーションの質を上げるため、母親から言われ続けてきた「感謝の気持ちと謙虚な心」を時々思い出すとともに、リーダーシップセミナーで教わった「良い学び、良い言葉、良い思い込み」、常に前向きな言動を意識しています。臨床検査技師の皆さんと協力して業務改善、効率化を進め検査の質を向上させていきます。写真は月1回の検査部の全体会議のものです。
 東海大学の宮地先生が、認定施設の指導責任者として快く研修を受け入れて下さり、教室内の先生方、臨床検査技師の皆様の温かいご指導のおかげで無事に臨床検査専門医となることが出来ました。御礼を申し上げます。ご恩を忘れないよう、専門医を目指す先生方をサポートしたいと考えています。
 当院では産業医(職員の健康管理医)も委嘱されています。
 運動不足解消のため走り始め、H28に初フルマラソンを走りました。
 一度きりの人生、仕事もプライベートも充実させたいです。よろしくお願いいたします。

消化器内科医から検査専門医への転向(岐阜大学付属病院検査部 伊藤 弘康 先生)

 私は、岐阜大学付属病院検査部に所属しております伊藤弘康と申します。平成6年に岐阜大学を卒業し、岐阜大学病院第一内科(現消化器・血液内科)へ入局いたしました。その後5年間大学病院および市中病院にて消化器内科医として臨床診療を中心に行っていましたが、卒後6年目に岐阜大学大学院に進学し研究と臨床の生活が始まりました。研究に大変関心があったこともあり、大学院卒業後も愛知医科大学微生物・免疫学講座に移り研究をつづけました。愛知医科大学に2年ほどお世話になった後、岐阜大学病態情報解析医学の清島教授のお誘いを受け現職に就くこととなりました。
 清島先生は岐阜大学病院検査部の部長も兼任されており、この時点から私と臨床検査医学との関わりが始まりました。現在の検査部での業務ですが、もともと消化器内科が専門ですので腹部超音波検査にかかわっています。また、内部精度管理や人事を含めた検査部全体のマネージメントにも参加しております。大学病院ですので学生に対する臨床実習を中心とした教育にも携わっています。さらに小動物を用いた基礎的な研究も引き続き行っております。
 検査部業務においては、他の臨床診療科と比べ直接的な患者さんとのかかわりが決して多くはありません。その分、比較的自由に使える時間が増えてくると思います。すなわち、自分のやりたい仕事に費やせる時間が多くなります。臨床研究をやりたい方は、検査部自体が検体も多く集まりいろいろな検査できますので大変いい環境だと思います。もちろん、患者検体を使用するので担当診療科とのコミュニケーションは重要です。また、私のように仕事の中で基礎的な実験が多い方も、やり方次第では十分に時間が作れるので存分に基礎研究にも打ち込めると思います。
 このように、臨床検査部には自分の好きな分野の仕事を十分進めることができる環境があると思います。いろいろなことに興味ややる気がある先生にとっては、検査部は非常に魅力がある部署ではないでしょうか。

呼吸器内科医から海外留学を経て感染制御医へ(山梨大学医学部附属病院感染制御室 井上 修 先生)

 山梨大学の井上修と申します。2014年度に臨床検査専門医の認定をいただきました。執筆の機会を頂きましたので、紙面をお借し自己をふり返ってみたいと思います。
 私は1996年に山梨医科大学を卒業した後、関東逓信病院に於いて呼吸器内科医として5年、続く海外留学の2年半を経た後に臨床検査医学へ入局し、2013年より附属病院感染制御室専任医師(検査部から細菌検査室担当医師も拝命)として勤務しております。
 臨床検査専門医の先輩方と多少異なる進路と思いますが、現在のポジションは病院内で臨床検査医が担う事が可能な役割の一つと感じます。感染制御室では、医・看・薬・検・事等からなる多職種がチームで日々病院内の問題状況を把握し解決にあたっています。感染制御の知識に加え、多職種との連携を図り他部門スタッフと良好な関係性を維持するスキルが求められますが、後者は臨床検査医のトレーニングで養われますし、検査基地である検査部は活動の要です。今後ますます重要性を増す病院感染対策は、臨床検査医が参画する意義がある分野だと考えます。
 呼吸器科医から臨床検査医へと転向し実感したのは、時間管理の自由度が格段に増したことでしょうか。ルーチン業務はさておき、病床を持たない当講座ではあらかじめ調整しておけば実験中に病棟から呼ばれる事がありません。子供の急病にも自分で対応する余地が十分あります。穴も後日埋められます。診療スキルは外部病院での非常勤医師で維持が可能です。我が家は勤務医夫婦が切り盛りする核家族世帯ですので、このように自由度が高い就労環境の恩恵を特に実感しました。この状況を今風の言葉で表現すれば、「自分の目指すワークライフバランスを実現しやすい」となります。
 このような状況で現在に至りました。誰もが人生哲学に従いつつ状況を見極め進路を決めますが、臨床検査医への転向等この20年の舵取りは、私には珍しく満足できるものであったと思います。

肝臓内科医から臨床検査専門医への転向(近畿大学医学部臨床検査医学 田中 裕滋 先生)

 私は、医学部を卒業して消化器肝臓内科に所属しました。大学病院で研修を終えてから市中病院に赴任し、内科医としてコモンディジーズを含めた多くの疾患を診る機会を得ました。その後、院生として大学に戻り、臨床ではC型肝炎や肝細胞癌の診療が中心ですが、研究面では肝臓医の中ではマイナーな肝代謝の世界に飛び込みました。Dubin-Johnson症候群の原因遺伝子であるMRP2を中心にビリルビン代謝の研究を進めてきました。学位取得後は留学のため渡米し、肝臓を中心とした核内レセプターに着目して種々の肝障害モデルで検討しました。帰国後、近畿大学医学部臨床検査医学教室に着任し、主に臨床検査の教育に取り組み、その傍らで非アルコール性脂肪肝炎、脂質胆汁酸代謝の分野で研究を継続しています。
 ようやく臨床検査専門医の受験資格の条件が整い、専門医試験に挑みました。専門医になってからは、日常診療での検査計画や臨床検査値の解釈に深みが増したことを実感しています。専門医による適切な検査項目の選択や正確なデータの解釈は、病態把握や診断プロセスに大きく貢献し、延いては医療レベルの向上に繋がります。学生指導においても、これまで研究をしてきた経験も生かして、メカニズムや理論的な知識を織り交ぜて講義をしています。
医師国家試験には出題されない内容かもしれませんが、暗記に頼らない理屈を説明することで、検査値と向き合う興味を引き出そうと努力しています。
 このように臨床検査医学は、検査データをより深く詳細に読むことで、各科の先生の診療に役立つだけでなく、医学教育においても大きな影響を与えることができる分野と考えています。また、臨床検査値を解釈する力を養うことは、研究活動にも寄与し、互いに相乗効果となり発展して行くことと思います。臨床検査専門医は、舞台裏の仕事のように思われるかもしれませんが、決してそのようなことはなく、社会貢献の一端を担う貴重な存在だと実感して頂けると思いますので、是非キャリアの選択肢として考えてみてください。

日本臨床検査医学会ではこの分野に興味をお持ちの方に臨床検査専門医をより知っていただくためのQ&Aを作成しました。すこしでも興味のある方は、どうぞご覧ください。 日本臨床検査医学会 臨床検査専門医がわかるQ&A
また、日本臨床検査医学会では、復職やキャリア転向を考えている医師の相談窓口を準備しています。関心をお持ちの方は、是非お気軽にお問い合わせください。ワークライフバランス委員会の医師が守秘責任をもってご相談に乗ります。お待ちしています。
日本臨床検査医学会 専門医相談・サポートセンター E-mail : support@jslm.org